オープンソースがもたらすエンジニアの可能性

こんにちは。ブログ更新担当のイリサワです。

アイエスエフネットでは、エンジニア教育の一環として、さまざまな講習会や情報共有の場を設けています。今回は特定非営利活動法人エルピーアイジャパン(以下、LPI-Japan)の理事長 成井 弦さまが講演にいらっしゃると聞きつけて、私も参加してきました。

LPI-Japanは、Linux技術者認定試験などを通じて、Linux / オープンソース技術者の育成とオープンソース普及のための支援活動を行う、非営利団体として2000年に設立された団体です。

今回の成井理事長の講演のテーマはもちろんオープンソース。「オープンソースムーブメントが創り出す新たなビジネスモデル」というテーマでお話いただきました。

ープンソースとクローズドソースの違い

まずはオープンソースソフトウェアについて簡単に説明します。

プログラムの実行にはソースコードが必要ですが、ソースコードを読み解くことでそのプログラムの構造や動作の仕組みなどを知ることができます。これまで、多くの企業は、開発したソフトウェアが真似されることを恐れて、企業秘密としてそのソースコードを非公開にしてきました。このようなソフトウェアはクローズドソースソフトウェアと呼ばれています。クローズドソースのソフトウェアを使用するには、多くの場合、ソフトウェアの使用権(ソフトウェアライセンスと呼ばれる)を購入する必要があります。これはライセンスを購入した個人または法人のみに使用権が認められるというビジネスモデルです。つまり、使用者をライセンス購入者に限定するライセンス形態を採用しているということです。

逆にオープンソースソフトウェアとは、ソースコードが公開されているソフトウェアで、誰でも自由に、しかも多くの場合、無償で使用することができ、ソフトウェアの複製や改変、再配布や自身の開発するプログラムへの組み込みもできる、いろいろな意味で自由度の高いソフトウェアです。つまりできるだけ多くの人・企業にソフトウェアを利用してもらうことを前提とした考え方(思想)です。

かつては、ソフトウェアの中身を秘密にすることで競合他社との優位性を築くというビジネスモデルが主流でした。しかし近年、オープンソースソフトウェアが注目されているのは、開発したソフトウェアのライセンス料金で利益を得るのではなく、そのソフトウェアを改変したり、またはレベルの高いサービスを顧客に提供することで利益を得るというモデルに変わりつつあるからです。ソフトメーカーが性能の上限値を決めてしまうクローズドソースソフトでは不可能な能力であっても、オープンソースソフトであれば実現できるがため、より付加価値の高いサービスを顧客に提供できるようになるという特徴があります。

▲オープンソースソフトウェアの可能性について語るLPI-Japan 理事長の成井様

うして、サムソンはAndroid市場で強いのか?

多くのオープンソースソフトは誰もがソフトの改善に貢献でき、「貢献の競争」に勝った企業または個人が最大の受益者になり得るビジネスモデルを採用しています。

例えば、スマートフォンのAndroid。Googleが開発したこのソフトウェアもオープンソースソフトウェア(OSS)です。そして、スマートフォンメーカー各社が、このAndroidをより良くするソフトウェアを無償で作り、Googleに送ります。Googleではそのように無償で提供されたソフトウェアをAndroidの機能別に仕分けし、それぞれの機能で一番良いソフトウェアを次にリリースするAndroidに採用します。

仮に機能1にA社が提供したソフトが採用されれば、次のリリースのAndroidの機能1に関しては、通常自社のプログラムが採用されたA社のスマートフォンが最も効率よく動作することになります。オープンソースソフトウェアの世界では自社が提供したプログラムがある分野で採用されれば、その分野において、プログラムを提供した企業が圧倒的な優位性を築くことができます。

Androidスマートフォンの世界でサムソンが圧倒的に高いマーケットシェアを世界で取っているのは、Androidをより良くする「貢献の競争」でサムソンが提供するプログラムが最も多く「貢献の競争」に勝ち、採用されているからです。その結果としてサムソンのスマートフォンがAndroidを使用した際に最も効率よく動作するからです。

動的に貢献していくエンジニアが強い!

オープンソースソフトウェア(OSS)の世界では、この「貢献の競争」に勝つ企業・個人が、勝った分野においては最大の受益者(社)になり得るというビジネスモデルがあるがゆえに、OSSは強固なソフトウェアになります。これはLinux、OpenStack、 PostgreSQLなど、多くのOSSにも当てはまるビジネスモデルです。この「能動的な貢献」の重要性はアイエスエフネットの哲学の1つ「利他の心」に通じるものがあります。それは、貢献することで直接的に金銭的なメリットがなくても、オープンソースの世界に貢献することに大きな意味があります。結果として最大の貢献者が別の面で最大の受益者になり得る場合が非常に多いのです。

らゆる分野で採用されるオープンソースソフトウェア

ITエンジニアにとってオープンソースソフトウェアに関する知識の必要性を裏付けるこんな数字があります。

スーパーコンピュータに関連する多くの情報を提供しているTOP500.orgの発表した「スーパーコンピュータランキングTOP500」によると、世界最速のスーパーコンピュータ500台の内、99.6%がLinuxを使用しており、性能比におけるLinuxのシェアは99.9%です。スパコンに要求される性能は、単に計算速度が速いということだけでなく、セキュリティーの観点、信頼性など、ITシステムのいろいろな面で最も高い性能を要求されます。そのスパコンのほぼ100%にLinuxが利用されている事実は、Linuxが他の分野においても優れたOSとして利用され得ることの証明です。そしてすでにPCを除く多くの分野においてLinuxが利用され、今後増えると思います。さらに、今注目されているAI(人工知能)、FinTech、IoT、自動運転などの分野でも、Linuxやオープンソースソフトウェアが主流となっています。

▲パソコン市場以外のほぼ全ての分野でLinuxが主流OSとして採用されている
※出典:LPI-Japan理事長成井様の講演資料より

Linuxの知識があるとエンジニアとしての可能性が無限に広がる

このような理由から、LinuxやOSSの知識は、システムエンジニア、ネットワークエンジニア、インフラエンジニア、開発エンジニアなど、ITエンジニアと呼ばれるあらゆるITエンジニアに求められる必須の知識となってきています。エンジニアとしてのキャリアパスを描く上で差別化を考えたとき、今からLinuxやOSSに興味を持って勉強していくことは必須となります。そして、LinuxやOSSの知識を得た先には、エンジニアとしての選択肢と可能性が限りなく広がっていきます

とめ

講演の最後に成井理事長から「オープンソースソフトウェアの力を付けることは、本当のITエンジニアとして、自分自身に満足できる世界に導いてくれます」というメッセージは印象的でした。参加したメンバーからも「将来のエンジニア像を描く良いきっかけになった」という声もありました。

Linuxの知識を体系的に学ぶには、LPIC(Linux Professional Institute Certification)という資格取得を目指すことをお薦めいただきました。この資格は受験者数、認定者数で世界最大のLinux技術者の認定資格で、日本国内での受験者数は延べ30万人、認定者数は延べ10万人を超えている資格です。また、「資格取り方選び方ガイド 2017年版・2018年版」(高橋書店)で「ジャンル別受験者数ランキング コンピュータ部門」で1位に選ばれ、女性エンジニアにも人気だそうです。そしてLPI-JapanではLPIC取得に向けた無料のセミナーも開催していますので、ぜひ活用してくださいとのことでした。
※セミナー情報:http://www.lpi.or.jp/news/event/

LPICは習熟度の違いでレベル1からレベル3までありますが、アイエスエフネットでも多くのエンジニア(2017年1月1日現在で Level1は339名、Level2は126名、Level3は79名)が取得しています。

これからのエンジニアは、お客さまから求められるスキルセットに、Linuxの知識を持っていることが前提になるケースがさらに増えることが予想されます。また、エンジニアとしてのキャリアパスの選択肢や可能性が広がる技術の1つですので、私たちもさらに力をいれて、お客さまへの貢献はもちろん、エンジニアの夢が広がるサポートを「利他の心」をもって実践していきたいと考えています。

特定非営利活動法人エルピーアイジャパン 理事長 成井 弦さま
偶然にも弊社代表の渡邉と同じ大学(武蔵工業大学)で学ばれ、同じコンピュータ会社(DEC)に勤務された後、Silicon Graphics Inc. Japan(SGI-Japan)の副社長に就任。2000年にLPI-Japanを設立。現在に至る。

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